「私には必要ない」と思っていませんか?
「赤ちゃんとの暮らしは幸せいっぱい。大変なことも、母親なら誰だって頑張れる」──出産後の女性に対してそんなイメージを抱く人は少なくありません。
新しい命を育てることは言うまでもなくかけがえのない体験であり、わが子の成長は本当に愛おしいものです。けれど実際の子育ては、幸福感だけで乗り切れるほど甘くないというのも現実。妊産婦の10人に1人が「産後うつ」を経験すると言われるくらい、出産後の深刻な不調は誰にでも起こり得ます。(※1)

産後うつは、ホルモンの変化、慢性的な睡眠不足、赤ちゃんと二人きりで過ごす孤立感など、いくつもの要因が重なって起こります。放置すれば自殺に至るケースもあるため、産後のメンタルヘルスをどう支えるかは、大きな社会的課題となっています。
「母親なら誰だって頑張れる」というイメージは、周囲だけでなく、妊産婦本人も抱いてしまう“思い込み”といえるかもしれません。「ひとりで、もしくは夫婦で何とかするのが当たり前」と思い込まず、「誰かのサポートを受けることこそが当たり前」という発想に変えていくことが大切なのです。
研究からわかった、サポート「4人」の必要性
では、実際にどのくらいのサポートがあれば、産後のメンタルは守られるのでしょうか。
東京都の大規模コホート研究(MINTコホート研究)では、初産婦を対象に「妊娠中に困ったとき頼れる人の数」と「産後うつ症状」の関係を分析。その結果、明確な数字が見えてきました。研究によって「人数の目安」が示されたのは初めての試みなので、ぜひ注目してみましょう。
●初産婦全体では「4人以上」頼れる人がいると、産後うつ症状が大きく軽減される。
●25歳以下の若年初産婦では「6人以上」が必要。
頼れる人が3人以下のままでは、人数が増えても大きな改善は見られず、一定のラインを超えて初めて、支えが“効いてくる”こともわかりました。
この数字は「夫がいるから大丈夫」という思い込みを覆すもの。また、「夫と実母と義母の3人」がサポートしてくれるとしても、研究結果によれば、まだまだ十分ではないということです。
つまり、産後のメンタルを守るには「気力で頑張る」ことを避ける必要があるのは言うまでもなく、「夫のサポートがあるから乗り切れる」「母が来てくれるから大丈夫」というこれまでの思い込みもなくして、「4人の頼れる人」が誰なのかを具体的にして準備しておくことが重要といえます。
夫と母と…ほかには? 「4人」の壁は意外に高い?
あなたの場合はどうでしょうか。実際に身近な人を思い浮かべて数えてみましょう。
まずは夫。ここに実母や義母を加えると、2〜3人まではすぐに出てきます。姉妹や親しい友人を入れれば、4人に届くこともあるかもしれません。
でも実際のところ、「夫は仕事が忙しくてあまり頼れない」「実家は距離が遠くてすぐには来てもらえない」「いつでも連絡して、と言われていても、自分からは頼みにくい」「相手にも仕事や都合があるので対応が難しい」などの理由で、“数には入っても、いざというとき頼れない場合もある”というケースが少なくないのではないでしょうか?
そう考えると、「4人って、意外と難しい」と感じてしまう人は多いはず。ましてや25歳以下の初産婦に必要とされる「6人以上」となると、家族や親戚だけで達成するのは現実的ではありません。

だからこそ、行政や地域からの「産後ケア」サポートを「頼れる人のひとり」としてあらかじめお願いしておくという心構えと準備が大切になります。助産師、保健師、産後ケアセンターのスタッフ。そういったプロフェッショナルな人たちは、赤ちゃんのお世話や母親の心身のケアを専門にしている、まさしく「信頼できる存在」です。
「家族だけでは人数が足りない」と気づいたときに、社会のサポートを選びにいけるかどうか。そこに、産後の安心感と健康度を大きく左右する分かれ道があるといえるでしょう。
夫婦ふたりで抱え込まないために
家族以外のサポートを受けることは、パパのメンタルヘルスを守るためにも有効です。
現代社会では、男性育休を取得する体制も徐々に整いつつありますが、その制度を必要十分な期間、しっかりと活用できる人はまだまだ少数派。そして、パパ自身もまた、産後の環境変化の中で大きな負担を抱えているという現実もあります。
オーストラリアのディーキン大学による国際的な研究では、父親の精神的不調が、子どもの発達に影響を与えることが明らかになりました。妊娠期から生後2年間にかけて父親がうつ・不安・強いストレスを抱えていると、子どもの社会性や感情、認知、言語、身体的な発達に遅れが見られる傾向が報告されています。
研究者たちは「父親の不調は、子どもとの関わりにおける感受性や反応性を低下させ、愛着関係の安定性を損なう可能性がある」と指摘しています。実際、父親の臨床的うつ病は約8%、不安障害は11%、強いストレスは6〜9%と報告されており、決して珍しいことではありません。
つまり、「夫婦ふたりでがんばれば大丈夫」ではないのです。パパもまた支援を受けてよい存在であり、それは「弱さ」ではなく「強さの選択」なのだと捉えることが大切です。
そこで頼りにしてほしいのが、地域や自治体が提供する産後ケアの仕組みです。
助産師や看護師が宿泊でサポートしてくれる「宿泊型」、日中だけ利用できる「デイケア」、自宅に来てくれる「訪問型」といった公的な産後ケアのほか、自治体によってはベビーシッター費用助成などもあり、受けられる内容はさまざま。ぜひ早いタイミングで調べてみていただきたいと思います。
自分の周りの頼れる人を数えたとき、4人に届かなければ、あるいは夫婦だけで背負い込もうとしているなら──まずは「〇〇区(○○市) 産後ケア」などと検索してみてください。今の暮らしに足りない“安心の人数”を補ってくれるサービスがきっと見つかるはずです。
産後ケアは贅沢品ではありません。むしろ、家族全員を守るために必要な「当たり前の選択肢」なのです。
ママもパパも赤ちゃんも、みんなが健やかに過ごすために。
産後ケアのサポートを「誰もに必要な手段のひとつ」として積極的に選んでみてください。(※2)
(※1) 出典:
日本うつ病学会誌「周産期うつ病の疫学」(2023年, Vol.125, No.7, pp.613-623)https://journal.jspn.or.jp/Disp?mag=0&number=7&start=613&style=abst&vol=125&year=2023
女性の周産期うつ病の有病率は11.5~15.1%、産後1か月時点で14.3%と報告されている。
WHO
https://www.who.int/teams/mental-health-and-substance-use/promotion-prevention/maternal-mental-health
Worldwide about 10% of pregnant women and 13% of women who have just given birth experience a mental disorder, primarily depression. In developing countries this is even higher, i.e. 15.6% during pregnancy and 19.8% after child birth.
世界では、妊婦の約10%と出産直後の女性の約13%が精神疾患、主にうつ病を経験しています。発展途上国では、この割合はさらに高く、妊娠中は15.6%、出産後は19.8%に上ります。
(※2)出典:
東京都医学総合研究所 社会健康医学研究センター「若い初産妊婦の産後うつ症状軽減には、妊娠中に頼れる人が6人以上必要」
https://www.igakuken.or.jp/topics/2025/0627.html


