第一子の出産は、誰にとっても「初めて」の連続。順調に見えるスタートの裏で、思いがけない戸惑いや葛藤を抱えることも少なくありません。
今回お話を伺ったのは、2025年に女の子を出産した目黒区の女性。産前から情報収集を重ね、夫婦で育児のスタートを切りました。しかし、生後1ヵ月半を過ぎた頃、思いがけず大きな壁となったのが「授乳」でした。母乳へのこだわり、自分を責めてしまう気持ち、そして睡眠不足——。
そんな中で、助産師の訪問や宿泊型産後ケアの利用を通じて少しずつ視点が変わったといいます。制度を使いこなすというよりも、「必要なときに、無理なく頼る」ことの大切さ。リアルな体験を通して見えてきた、産後ケアとの向き合い方について伺いました。

屋良(やら)恵利佳さん:
目黒区在住。バカルディ ジャパン株式会社勤務。2025年11月、第一子となる女の子を出産し、現在は育児休業中。ご主人はベトナムにルーツを持ち、日本・ベトナム・アメリカでの生活経験を経て日本で就職。出産は育良クリニックで行い、産後は厚生中央病院の宿泊型産後ケアや、目黒区の助産師訪問サービスなどを活用。復職に向けた準備も進めている。
二人三脚で迎えた出産と、順調に思えたスタート
——出産されたときのことや、産後すぐの生活について教えてください。
出産は自宅から近くて評判の良かった育良クリニックでお願いしました。決め手になったのは個室があることと、夫が一緒に泊まれること。実際、生後0日目からふたりで育児ができたのは貴重な経験でした。私の体のつらさもわかってもらえましたし、育児の喜びや責任感を同じタイミングで共有できて。「あの時間は本当によかった」と夫も言っています。
もしあの経験がなかったら、帰宅後も「いるけど何もできない」という状態になったかもしれないので。お互いにとって意味のある時間だったと思います。

——とても順調なスタートを切られたのですね。
そうですね。妊娠33週くらいのタイミングで、クリニックのパパママクラスにも参加しました。出産の流れや陣痛時のサポートなどを助産師さんが丁寧に教えてくださって。初めてのことなので、実際のプロセスがイメージできていると安心感が違うな〜と実感しました。

——心の準備って大事ですよね。お話を伺っていると、何事も準備をしっかりされる方なのかなと感じました。
そうかもしれません(笑)。事前にできることはすべてやっておこうと動くタイプかな。やれるものは早いうちにやっておきたいというか、書類なども書けるものは先に準備しておいたほうが安心できるんです。産後ケアのことも、妊娠中からある程度は調べていました。
——調べておいてよかったと感じることはありましたか?
産後ってやはり想像以上にバタバタしますし、寝不足で頭もぼーっとしてしまうので、落ち着いて調べたり手続きをしたりする余裕がないんですよね。なので、事前に「こういう制度がある」「こうやって申し込む」というのを知っておけたのは大きかったと思います。
本当は出産した育良クリニックの産後ケアも受けたかったのですが、人気が高くて難しそうだとわかっていたので、あらかじめ別の選択肢として厚生中央病院を考えていました。
——事前に“第二候補”まで考えていたんですね。
そうですね。病院に問い合わせたら「生まれたら予約してください」と言われたので、産後に宿泊型ケアの予約を入れました。時期については夫とも相談して、「このくらいに疲れていそうだよね」と、1月下旬と2月中旬に。
今振り返ると、あの準備があったことで「安心して産後を迎えられた」というのもあったと思います。

思い通りにいかない授乳と、支えになった産後ケア
——産後、とくに大変だったことは何でしたか?
授乳ですね。生まれる前は「母乳でもミルクでも、柔軟に選べばいいかな」と思っていたんです。混合でもいいし、母乳にこだわらなくてもいいかなと。でも実際には母乳がしっかり出たこともあって、そこから「母乳で育てたい」という気持ちがどんどん強くなっていったんですよね。

——赤ちゃんを目の前にして、気持ちが変わっていったんですね。
そうなんです。あれは「母性」なのかもしれませんね。
でも、生後1ヵ月半頃に、母乳ストライキでなかなか飲んでくれなくなって。あのときは、かなり思い詰めていたと思います。「私の努力が足りないんじゃないか」「頑張ればもっと上手くできるはずなのに」と、自分を責めてしまって。
——それはしんどい時期でしたね…。
当時はただただ夢中でしたが、今振り返ると、睡眠もちゃんと取れていなかったし、精神的にも追い込まれていたと思います。搾乳機も使ってはいたのですが、ボトルであげることで直母離れに繋がるのでは、という声をネットで見たこともあり、積極的に活用するわけではなく。直母を何回かトライしても上手く行かなかった時に「仕方なく搾る」という感じで・・・。余裕がなかったですね。
最初の育児って、何でも心配になってしまうじゃないですか。ちょっとしたことでも「大丈夫かな?」って。吐き戻しも気になるし、ミルク量が足りているのか不安になるし。
で、ネットで調べるんですけど、それが逆に不安を大きくしてしまうこともあって。何が正しいのかわからなくなってしまうんですよね。
——その状況から、どのように変化していったのでしょうか?
ちょうどその頃に、目黒区の助産師訪問サービスを利用したんです。自分の授乳の仕方が間違っているのではないか、ちゃんと量が出ていないのではないか、とずっと不安があったので、実際に見ていただいたんです。
そのとき「今は周囲の刺激に夢中なだけよ」「あなたのせいじゃない、おっぱいを飲みたくないのはこの子の意志だよ」と言っていただいて。その言葉に本当に救われました。
それまでは、「どんなことでも自分が頑張ればなんとかなる」と思っていたので、うまくいかないと全部自分のせいにしてしまっていたんです。でも、「この子の意志」と言ってもらえたことで、「そうだよね、こんなに小さくても自分の意志があるんだよね」と思えて。
——プロフェッショナルな立場の方のひと言で、安心できたり、柔軟に考えるきっかけになったりということ、ありますよね。
そうなんです。助産師さんから「日中は搾乳であげることに振り切って、夜だけ直母にしてみたら? その方がママも楽だよ」と提案していただいて。搾乳しておけば夫にもお願いできますし、「こういうやり方でもいいんだ」とようやく柔軟さを取り戻せた感じです。
「自分でやれることはちゃんとやれている」と思えたことも、自分にとってはすごく大きかったですね。


宿泊型産後ケアで「私は休みにきてるんだ」と気付かせてもらった
——その後、先ほど少しお話しいただいた厚生中央病院の宿泊型産後ケアも利用されたんですね。
はい。1回目は2泊3日、2回目は3泊4日で利用しました。基本的にママの希望を優先してくれるので、赤ちゃんを預かってもらうこともできますし、一緒に居たい人は同室も選択できます。私は夜も別室で見ていただいて、しっかり休むことができました。
それでも初日には、せっかくの母子別室なのに「朝6時に連れてきてください」とお願いしたんです。そしたら看護師さんに「え、ママ休まなくて大丈夫?」って言われて(笑)。「あ、私、ここに休みに来てるんだ」って、そのとき改めて気づいたんです。
それまで赤ちゃんと離れる時間がなかったので、「預けていいのかな」「これってネグレクトじゃないのかな」と思ってしまったんですよね。でも、そうじゃないんだと。2日目からは気持ちに余裕ができて、朝もゆっくり寝ていられるようになりました。
——滞在中はどんなことをして過ごされたんですか?
時間内であれば外出も自由なので、子どもを預けて美容院に行ったりしました。でも途中からやっぱり気になってしまって、最後は駆け足で戻ったんですが(笑)、娘が看護師さんに抱っこされてニコニコしている姿を見て、「大丈夫なんだな〜、私が心配しすぎていたのかな」と思えました。2回目の利用時には夫とゆっくりランチデートも楽しませていただきました。


——自分の時間、ご主人との時間をゆっくり過ごすこと。大切だけど夫婦ふたりではなかなか実現できないですものね。
そうですよね。安心して預けられて、リフレッシュできれば、また育児にしっかり向き合えると感じました。
小児科があるのもよかったですね。何か小さな心配があっても、生まれたての赤ちゃんを連れてわざわざ病院に行くのってむしろ不安じゃないですか。でも、産後ケアのついでに見ていただけたのは本当にありがたかったです。
頼ることで見えてきた「心の余白」と「視点の変化」
——サポートを利用する中で、ご自身の中で変化したことはありますか?
大きかったのは、「自分ひとりでなんとかしなくていいんだ」と思えるようになったことですね。それまでは、「こうしなきゃ」「ちゃんとやらなきゃ」という気持ちが強かったと思います。でも、助産師さんとお話ししたり、預かっていただいたりする中で、「頼っていいんだ」と思えるようになって。
「この子の意志」と言ってもらえたことも、「休まないの?」と声をかけてもらえたこともそうですが、自分の中の前提が少しずつ変わっていった感じがありました。
——視点が変わっていったんですね。
そうかもしれません。全部を完璧にやろうとしなくてもいいんだな、と。
育児って、本当に人それぞれで。母乳ひとつとっても、出る・出ないも違いますし、赤ちゃんの飲み方も違いますよね。そこを受け入れられるようになると、少し楽になれるというか。育児の正解を探すのではなく、「まぁ、ちゃんと育っていればいい」の積み重ねだと思えるようになったのは大きかったと思います。

「構えすぎなくていい」——これから出産を迎える方へ
——最後に、これから出産を迎える方に伝えたいことはありますか?
「そんなに構えなくても、頑張り過ぎなくてもいいんだよ」と伝えたいです。
産後は想定外の大変なことが起きて、そのときは「これが永遠に続くんじゃないか」という気がしてしまうんですよね。振り返ってみれば意外とあっという間なんですけど、そのときは。だからこそ、その間に無理をしすぎず、頼れるものは頼っていいと思います。
産後ケアって、調べ物や予約など、最初は少しハードルが高く感じるかもしれないんですけど、実際に使ってみると「こんなに助けてもらえるんだ!」と思えますし、プロフェッショナルの立場の人からのアドバイスやいつもの環境を少し変えてみることで、育児への新しい価値観を発見できる良い機会だと思います。
理想通りにいかないこともたくさんありますし、「こうしたかった」という気持ちもあるんですけど、それに縛られすぎないほうがいいですよね。私自身、「割り切れることって大事なんだな」と感じるようになりました。本当に大切なのは、子どものペースに合わせることと、ママがハッピーでいること、だと思います。
子育ては焦らず、気長に。一喜一憂しすぎずに、長い目で見ていけたらいいのかなと思います。
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「ひとりで頑張らなくていい」という選択肢は、確かに存在しています。助産師の訪問、宿泊型の産後ケア、産後ドゥーラ、ベビーシッターなど、地域や制度によって利用できるサポートはさまざまです。
今回のインタビューを通して、こうした支えをぜひ積極的に活用してほしいと、改めて感じました。
「知らなかった」「タイミングを逃してしまった」「なんとなくハードルが高く感じた」——そういった理由で、必要なサポートを受けそびれてしまわないように。 ぜひ、一歩踏み出して、その扉を開けてみてください。
産後は、想像以上に心と体の負担が大きい時期です。
だからこそ、無理をする前に、頼れるものを知っておくこと。
そして「頼っていい」と思えることが、何よりも大切なのではないでしょうか。
あなたや、あなたの大切な人が出産を迎えるとき、少しでも安心してその時間を過ごせますように。



